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はじめに
日蓮正宗妙観講連続電話盗聴事件についての裁判は、平成十四年十月十六日に妙観講並びに同講講頭・大草一男が名誉毀損を理由に、創価学会、(株)報恩社など法人・個人合わせて七名を東京地裁に訴えたことによって始まった。それから五年以上の審理を終え、平成二十年三月七日に妙観講並びに大草側の敗訴、創価学会、(株)報恩社などの勝訴が最高裁で確定した。
そもそもこの裁判は、電話盗聴犯が犯行を隠蔽しようとして起こした謀略裁判であった。しかしながら、妙観講並びに大草の目論見は外れ、以下のような電話盗聴の事実が確認された。
顕正会幹部・加藤礼子宅電話盗聴(昭和六十三年秋ごろ〜平成元年二月ごろ。既遂。録音テープあり)
創価学会幹部・Y宅電話盗聴(平成三年五月十日〜同年五月十七日まで。既遂。録音テープあり)
日蓮正宗宣徳寺電話盗聴(平成三年十一月二日〜同年十一月二十一日まで。既遂。録音テープあり)
日蓮正宗妙泉坊電話盗聴(平成三年十一月ごろ。未遂)
X宅電話盗聴(平成三年十一月十二日、十三日、十六日および同年十二月十日〜十二月三十日まで。既遂。録音テープあり)
その他、銀行口座等に電話盗聴に関すると思われる振込みが二件確認されたが、被害者の氏名は不詳のまま終わった。
確認されるだけでも、三年にわたり五件もの電話盗聴(既遂・未遂)を(株)帝国リサーチ(当時、東京都新宿区)に依頼して実行してきたのは、日蓮正宗の総本山大石寺の塔中坊である理境坊に所属する妙観講である。同社に電話盗聴の依頼並びに連絡に表立って出入りしていたのは、同講の最高幹部の一人であり、元教学部長であった渡辺茂夫であった。この渡辺が事件について、原告の異なる三つの裁判において証言したことによって事件の一部が明らかとなったわけである。なお、渡辺は(株)帝国リサーチの行なった電話盗聴のすべてを知っているわけではなく、裁判の経過を見る限りにおいては、その電話盗聴費用を初期において工面した妙観講講頭・大草のほうが、事件の全貌をよりよく知っていると思料された。しかし、当然のことながら大草は電話盗聴への関与を否認し、事件の真相について世に明かすことはなかった。
それどころか、一連の電話盗聴事件について報じた創価学会や私の経営する(株)報恩社などに対し、名誉毀損であるとして不当な訴訟を起こしてきたのだった。まったくもって許すことのできない所業である。しかしながら、両七年に及ぶ裁判によってその謀略訴訟の目論見は破綻した。それによって一連の電話盗聴の事実が明確となった。一連の電話盗聴に関与した大草などが不自然な否認を繰り返すことにより、一層、真実が浮かび上がってきたのである。
なお、東京地裁は、妙観講の「ワタナベシゲオ」名義で(株)帝国リサーチに支払われた金員が、領収書及び銀行口座への入金記録によって一三六四万二四五円であると認定した。そのうえで、平成二年十月一日付の「特別会員年会費」三六〇万円の領収書が存在していること、さらに翌平成三年十二月十二日に「特別会員年会費額360万円に消費税を加算した額」三七〇万八〇〇〇円が(株)帝国リサーチの銀行口座に振り込まれていることを事実認定した。
この「特別会員年会費」の特典は、その年会費を支払うことによって調査費用が平成二年十月時点では、三〇パーセント引きとなり、平成三年十二月時点では四五パーセント引きになるものであった。このことから東京地裁は、平成二年十月の時には年間一二〇〇万円以上の発注を、平成三年十二月の時には年間八〇〇万円以上の発注を見込んでいたと判断している。
東京地裁は、支払人の「ワタナベシゲオ」は、この当時、主に妙観講の機関誌『暁鐘』編集部に在籍し、月給一四万円の薄給を支給される身分で、さしたる財産がなかったことも判決において事実認定している。
この電話盗聴にかけられた金額の多さからしても「ワタナベシゲオ」は単なる窓口であり、その背後には、いざという時に渡辺茂夫へ罪の一切をかぶせようとした極めて陰湿な計略が当初よりあったことが認められる。
私がこの一連の電話盗聴事件についての情報を入手したのは、平成七年十二月初旬に僧侶Aからであった。この時、僧侶Aは私に一連の電話盗聴事件の命令系統について以下のように述べた。
「御前さんが小川只道に命じ、小川が自分の理境坊所属の妙観講講頭の大草一男に命じて、さらに大草が妙観講の教学部長だった渡辺茂夫を通して業者を使い、宗内外の者を電話盗聴させているんです」
日蓮正宗においては「御前さん」とは法主≠フことであり、当時においては阿部日顕である。小川只道とは、日蓮正宗総本山大石寺塔中坊である理境坊の住職。また、大石寺の理事(主に警備担当)でもあった。
私は僧侶Aから情報入手した約二年後、電話盗聴を行なった(株)帝国リサーチとの連絡役をなした妙観講最高幹部であった渡辺茂夫を取材した。渡辺は妙観講講頭・大草の指示で(株)帝国リサーチに電話盗聴を依頼したこと、一連の電話盗聴の最高命令者が日蓮正宗管長・阿部日顕であることを述べた。その取材ののちに、この一連の電話盗聴事件の最高命令者が、僧侶Aや渡辺の言うように本当に日顕であるかを確かめるため、日蓮正宗総本山大石寺の従業員への取材を行ない、さらに大石寺周辺の電話配線状況を確認した。
この現地調査は主に、(株)帝国リサーチの社員であった辻栄三郎と妙泉坊への電話盗聴に訪れたが未遂に終わったという、渡辺の自白の裏づけを取るためであった。私は、(株)帝国リサーチに所属し電話盗聴を行なう技術を持った辻と渡辺が、盗聴目的で大石寺を訪れ、同寺内でとった動線に興味を持った。その辻と渡辺の大石寺内の行動、大石寺の電話配線状況を確認することによって、渡辺が私に語ったことが真実であると判断した。辻と渡辺が特定の塔中坊に対する電話盗聴を目的として大石寺を訪れたことは間違いない。そしてその盗聴目標とされた特定坊とは、(株)帝国リサーチ発行の「請求書」に「妙泉坊の件」と明記されているのだから、明白である。
日蓮正宗総本山大石寺において盗聴目標とされたのは妙泉坊である。妙泉坊は当時、大石寺ナンバー2の八木信瑩が住職をしていた。大石寺ナンバー2の八木を盗聴しうる者は誰か。
さらに電話盗聴の対象は、日蓮正宗宗務院五部長の一人である渉外部長・秋元広学が住職をする宣徳寺(東京都世田谷区)にも及んでおり、これを一在家集団である妙観講が独断で電話盗聴を行なったとするならば、それは不合理に過ぎる。
僧侶Aは、一連の電話盗聴の最高命令者は同宗法主≠フ阿部日顕であり、渡辺茂夫もまた最高命令者について同様の陳述、証言をなしている。
だが、いまも日蓮正宗側は、阿部日顕のみならず小川や大草の事件への関与を否定し続けている。また、最高裁判決が下ったあとも妙観講並びに同講頭・大草に対し、なんら同宗は処分を行なっていない。本件訴訟の進行中の平成十六年一月三日、妙観講講頭・大草は同宗の信者組織である法華講の大講頭に叙され、最高裁判決後においても同地位にとどまっている。
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